平成27年の相続税改正により、今までは相続税がかからなかった方も課税されるケースがあります。
相続対策が注目されていますが、何をどう対策すればいいのかわからないこともあると思います。まずは最近の相続税の申告状況をご覧ください。
平成28年12月に国税庁が平成27年中(平成27年1月1日~平成27年12月31日)に亡くなった方の相続税の申告状況が発表されました。
平成26年分 | 平成27年分 | 対前年比 | |
① 被相続人数(死亡者数) |
約127万人 |
約129万人 |
101.4% |
② 相続税を申告した被相続人数 |
約5万6千人 |
約10万3千人 |
183.2% |
③ 課税割合(②/①) |
4.4% |
8.0% |
3.6% |
たしかに、②の相続税を申告した被相続人数が2倍近く増えているので、急いで対策をしないといけないと思ってしまいそうですが、相続税を下げることばかりにとらわれると後悔することがあります。
相続対策は、「①税金対策、②納税対策、③争族対策」をバランスよく行うことが重要になります。
当事務所では、相続対策は目的ではなく手段であり、「大切な財産をどうすれば次の世代に引き継がせることができるか」をサポートさせていただきます。
1.税金対策
(1)基礎控除額の縮小
平成27年1月1日以後に開始する相続から相続税が増税されました。
増税になった理由は「基礎控除額が縮小された」ことです。
基礎控除額とは、遺産から差し引くことができる金額のことですが、次のように改正されました。
平成26年12月31日以前の相続:5,000万円+1,000万円×法定相続人の数
↓
平成27年1月1日以後の相続:3,000万円+600万円×法定相続人の数
法定相続人の数 | 改正前 平成26年12月31日以前の相続 |
改正後 平成27年1月31日以後の相続 |
縮小額 |
1人 |
6,000万円 |
3,600万円 |
2,400万円 |
2人 |
7,000万円 |
4,200万円 |
2,800万円 |
3人 |
8,000万円 |
4,800万円 |
3,200万円 |
4人 |
9,000万円 |
5,400万円 |
3,600万円 |
このように大幅に基礎控除額が下がったことにより、今まで相続税に無縁だった人も課税されるケースが増えました。
(2)いくらの相続税が課税される?
増税されたとはいえ、全員に相続税が課税されるわけではありません。
まずは相続税の計算の仕組みを確認しましょう。
遺産額+みなし相続財産-債務・葬式費用+
3年以内の贈与財産=課税価格の合計額
課税価格の合計額-基礎控除額=課税遺産総額
イメージとしては基礎控除額よりも財産が多ければ相続税が課税されますが、「相続税はいくらか」により税金対策も変わってきます。(基礎控除額以下になれば相続税の申告は不要です)
その財産が相続税を計算するうえでいくらになるかを「財産評価」と言います。基本的には相続があったときの「時価」になります。
現金はそのままですが、土地などは一般的な時価とは異なり、国税庁が公表している「路線価」に土地の面積を乗じて計算します。
この路線価は実際の時価(土地の販売価格)より通常2割低く設定されています。
相続税が課税されたとしても少額であれば慌てる必要はないでしょうから、税金対策を実行する前に現時点での相続税額を試算することが重要です。
(3)小規模宅地等の特例
土地の評価を減額する小規模宅地等の特例を適用できれば、基礎控除額を超えても相続税が課税されない場合もあります。
次のように土地の用途により最大で80%減額ができます。
土地の用途 |
限度面積 |
減額割合 |
事業用 |
400㎡ |
80% |
居住用 |
330㎡ |
80% |
賃貸用 |
200㎡ |
50% |
たとえば、1億円の自宅でも330㎡以下なら評価額は2,000万円となり80%の8,000万円が減額されます。
ただし、小規模宅地等の特例は適用要件を満たし、相続税の申告が必要になります。
(小規模宅地等の特例と使った結果、基礎控除額以下になっても、相続税の申告をしなければ小規模宅地等の特例は適用されません)
(4)2次相続
たとえば、先にお父さんが亡くなった場合の相続を1次相続、次にお母さんが亡くなった場合の相続を2次相続と言います。
通常、2次相続の方が多額の相続税が発生します。これは、主に法定相続人が少なくなることにより基礎控除額が減少するためです。
たとえば、4人家族(お父さん、お母さん、子ども2人)の場合、1次相続では法定相続人は3人(お母さん、子ども2人)となり、基礎控除額は4,800万円ですが、2次相続は法定相続人が子ども2人だけですので基礎控除額は4,200万円となります。
したがって、最初から1次相続と2次相続の全体を見越して相続税の試算をすることが重要です。
2.納税対策
相続税は相続開始を知った日(通常は被相続人が亡くなった日)から「10か月以内」に申告・納付しなければなりません。
原則、現金で一括払いです。
現金で一括納付が難しい場合は、「延納」(分割で納付する方法)になり、延納も難しいときは「物納」(不動産などのモノで納付する方法)となりますが、延納も物納も一定の条件を満たす場合のみ認められます。
財産のほとんどが不動産の場合などは相続税の納税資金をどのように準備するかが問題になります。
不動産を処分して納税資金を確保することも実際にあり、不動産を売却することで売却益が出れば所得税や住民税がかかります。
相続税を支払う資金を準備するのに所得税や住民税を支払うことになってしまいます。
さらに相続税の納付期限は相続開始を知った日から10か月以内ですので、不動産を相続して10か月以内に売却しないといけます。そうならないためにも事前に納税資金を検討しましょう。
国税庁によると、土地・家屋の不動産で43%と全財産の半分を占めています。
例えば長男が不動産のみを相続し、次男が現預金などを相続すると、長男は不動産を処分して相続税を支払うことになりかねません。
(出所:国税庁 平成28年12月発表)
まず預貯金として持っておくことが確実だと考えられますが、本当に安心・安全でしょうか。
相続が発生すると預金口座は凍結(ロック)され、遺言書や相続人全員の遺産分割協議書がないと自由に引き出すことができなくなります。
引出ができないと、納税資金だけでなく葬儀費用や入院費用の精算などの支払いに困ってしまいます。
さらに預貯金は相続財産にもなるため、相続税の課税対象になります。
そこで、納税資金の確保と税金対策の両方の対策として次の2つがあります。
(1)生命保険の活用
相続人を死亡保険金受取人として生命保険に加入し、死亡保険金で相続税を支払います。
お亡くなりになったあと、手続きが完了すれば保険会社から数日のうちに保険金を受け取ることができます。
生命保険金の非課税枠といって、500万円×法定相続人の数までの保険金を非課税で受け取ることができます。
法定相続人が3人(お母さん、お子さん2人)の場合、500万円×3人=1,500万円が非課税となりますので、この1,500万円を超えた部分の生命保険金は相続財産となります。
(2)生前贈与
被相続人が現預金として持っておくと相続財産になるので、相続人に生前贈与して現預金を移すことで納税資金を確保できます。
暦年贈与はもらう人1人当たり年間110万円までは贈与税がかからないので、贈与をする時期が早ければ早いほど多くの現預金を移すことができます。
3.争族対策
相続税が課税されないから相続対策をしなくてもよいと思われがちですが、遺産分割による紛争(争族)対策は必要です。
特に遺産の大部分が不動産である場合には、遺産分けの問題が生じます。
生前に不動産を売却して現金化すれば分けやすくなりますが、住み慣れた自宅を売却することは簡単にはできません。
さらに、子どもは仲が良いのでもめることはないと思っていても、その配偶者などが口を出し争族になることがあります。
(1)遺言書
遺言書がある場合は、これに従って財産を相続します。
遺言書がない場合に相続人全員で話し合って財産を分ける遺産分割協議を行わなければなりませんので、無用な争いが生じる可能性があります。
つまり、遺言が優先されますので、遺言書を作成することで親族間のトラブルを避ける対策になります。
(2)代償分割と代償金
分割しにくい財産を分けるときは、「代償分割」が有効な分割方法です。
相続財産を現物で取得した相続人が、他の相続人に対して代償金として相当の金銭などを支払うことで不公平感をなくす方法です。
例えば、相続人が長男と次男の2人の場合で、話し合いではどちらが自宅を相続するか決まらないときに、法定相続分の割合で1/2ずつ共有して相続することができます。
しかし、共有にすると将来売却したいと思ってもどちらかが反対すれば売却できないなどトラブルの種になってしまいます。
長男が自宅を相続し、長男が次男に代償金を支払うことで相続人全員が納得して資産分割をすることができます。
ここまで主な相続対策をご紹介しましたが、他にも相続を取り巻く環境には成年後見や家族信託などもあり非常に複雑です。
「とにかく相続税を下げたい」「早く遺言書を書かないと」と突っ走るのは危険です。相続対策と言っても「家族構成」「財産構成」は人により異なります。
専門家による相続の“健康診断”を受けて現状を把握したうえで何の対策を行うのか考えていきましょう。