自己資金があっても【本当に】創業融資は受けた方がいい!?

[記事公開日]2017/09/28
[最終更新日]2017/10/25

創業融資は「始めに借りられるだけ借りた方がいい」と言われます。創業時に融資が必要でない場合もありますが、それでも創業融資を受けるメリットはあるのでしょうか。創業融資ならではの理由がありますので、ご紹介いたします。

1 創業融資を何に使うのか

まず、融資について確認していきます。

融資と言っても使い道(資金使途)は人それぞれです。大きく分けると次の設備資金と運転資金の2種類になります。さらに「設備資金と運転資金の両方とも」または「そのどちらか」の融資を受けたいかに分かれます。

1-1 設備資金

設備に投資するため、設備を買うための資金です。具体的には、営業車を買う、機械を買う、店舗の内装工事をする、テナント賃貸の保証金を払うなどがあります。

設備を長く使うことで利益を生むことから、設備資金の返済期間は長めに設定されています。設備によりますが返済期間10年以内が多くなります。

1-2 運転資金

設備資金以外の資金です。売上代金を回収するまでに不足する資金(入金と支払いのタイミングのズレ=つなぎ融資)、具体的には、仕入代金、外注費、人件費などの支払いに使うことができます。

運転資金の返済期間は設備資金よりも短く5年以内が多くなります。

1-3 返済期間はできるだけ長めがおすすめ

融資を受けるときに「いくら借りられるか」「金利はいくらか」を気にされる方は多いですが、「返済期間は何年か」を重視する方は少ないです。

早く返済を終わらせたいので返済期間を短くされる方もいます。返すものは早く返してスッキリしたいとのお気持ちもわかりますが、「返済期間が短い=毎月の返済額が多い」ことになり、資金繰りが苦しくなる原因になってしまいます。

返済期間が長いと毎月の返済額が少ないので手元のお金に余裕ができます。このお金の余裕があるかないかは事業を続けていくのに非常に重要です。

2 自己資金があっても創業融資を受けるべき

十分な自己資金を用意して創業する方は少ないと思いますが、しっかり自己資金があればわざわざ創業融資を受けなくてもいいように思います。

2-1 創業融資は受けやすい?

次のどちらが融資を受けやすいでしょうか。

〇創業時に融資を申込む

〇創業後1年経ってから融資を申込む

答えは、創業融資の方が融資を受けやすいです。

なぜ創業融資は受けやすいのか。それは、創業前後には決算書という事業の実績がありませんので、「自己資金」「業種経験」「事業計画」で審査します。つまり、自己資金や業種経験が特別多くなくても、しっかりした事業計画書を作成すれば創業融資を受けることができます。その意味では創業融資は受けやすいと言えます。(決して創業融資が簡単に受けられるわけではありません)

しかし、創業後1年経ってからの融資は、決算書が存在し、この決算書の内容(黒字・赤字)が審査に大きく影響します。1年目から順調に売上が増えていく方は少なく、多くの方が1年目は試行錯誤しながら事業を行いますので用意していた自己資金はだんだん減っていきます。このように資金繰りが苦しくなってから融資を申込んでも審査は難しくなってしまいます。(大きな仕事の注文を受けたというようなプラスの材料があれば融資を受けられる可能性はあります)

創業して2回の税務申告が終わっていると新たに融資を申込みやすいですが、それまでは最初の創業融資でお金を回していくことになります。つまり創業融資をいくら受けるかが資金繰りのポイントになります。ご自身で事業計画書を作って100万円申込むより、税理士等の専門家に相談して事業計画書を作成すれば300万円申込むことができる場合があります。創業期を乗り越えるために最初に資金の準備をしておくと余裕を持って事業を行えます。

2-2 公庫の新創業融資制度は「無担保・無保証」

融資では「担保必要、保証人必要」が一般的です。「担保と保証人の両方必要な場合」と「担保と保証人のどちらかが必要な場合」とがあります。現実的には、不動産などの担保を用意することは難しいですし、第三者の保証人も難しいですので、通常は代表者保証が多くなっています。

しかし、日本政策金融公庫の新創業融資制度は、国の政策として創業者を応援する目的から、無担保・無保証になっています。

詳しくは次のページをご確認ください。

メリットが多い新創業融資制度で創業融資を獲得する!

2-3 融資実績を作ると、次の融資がラク

金融機関から融資を受けて毎月返済する、一見当然のことのようですが、「毎月遅れることなく返済する」と「融資実績」になります、つまり、金融機関からこの会社は信用力があると見てもらえ、次回の融資に有利になります。(ただし、融資実績があっても審査はありますので、必ず融資が受けられるわけではありません)

さらに、1回目の融資は審査に時間がかかります。金融機関にとっても初めて取引するので1~2ヶ月かかることが多いですが、2回目からは会社の事業内容や代表者との面識もあるため、審査期間が短く早く資金を調達できます。融資を申込んでから融資実行までの期間が短ければ資金繰りは楽になります。

2-4 事業計画書作成はメリットがある

融資を申込むときの書類作成は面倒です。しかし、良い面もあります。

それは、事業計画書を作成するチャンスでもあります。頭の中でイメージがあっても、それを数字や文章にすることは意外と難しいです。さらに自分のビジネスモデルを外部の人に評価してもらう機会はなかなかありません。しかも、その外部の人は融資を審査する金融機関のプロの方です。このプロが審査OKと言うことはあなたの事業が評価されたことになります。自分だけのために事業計画書を作るよりも、金融機関に提出するために事業計画書を作るとしっかりしたものにしようと思うので、改めてビジネスモデルを見直すことができます。

 

3 無借金経営は優良企業?

税理士としてお客様とお付き合いしていると、「うちは無借金だから安心だよ」と聞くことがあります。逆に「うちは借金だらけで困ったもんですよ」と聞くこともあります。借金がないことがいいのか、会社経営する上で無借金が本当に良いかを見ていきます。

3-1 良い借入と悪い借入

製造業の会社で機械が故障して買い替える(設備投資)を例に考えます。

〇自己資金1,000万円で中古の機械を買うことができる

 →中古だと今までの機械と同じ性能

〇自己資金1,000万円と借入で2,000万円を調達できれば新品の機械3,000万円を買うことができる

 →新品だと生産性が上がり、新しい仕事にも対応できる

中古か新品かのどちらが良いかは会社の状況・外部環境・今後の方向性などにより変わります。

<新品の機械を買う>

新品の機械を買えば、大量生産や古い機械ではできなかった仕事ができるので、売上増加につながります。そうであれば、借入してでも新品を買う価値はありますよね。

しかしリスクもあります。製造業は得意先の在庫調整などにより仕事が減ったり、新しい製造の仕事がずっと続く保証はありません。つまり、思っていたほど売上が増えないので借入の返済が負担になることがあります。

<中古の機械を買う>

自己資金だけで中古の機械を買えば、当然借入の返済がありませんので、負担になることはありません。しかし、新しい仕事を逃すことになるので、売上が増えることもありません。

結局は、会社を大きくしたいと思っているか、大きくしたいと思っていてもそのタイミングが今なのか、など経営者の考え方次第です。

ただ、このような設備資金のための借入は良い借入と考えます。製造業は定期的に設備投資があり、設備資金が大きくなりがちです。これを自己資金で購入すると、運転資金に回せるお金が減って資金繰りが不安定になってしまいます。また、上記1-2運転資金でご紹介しました「つなぎ融資」も良い借入です。売上代金が入金されるまでの一時的に不足する資金を借入するので、売上代金が入金すれば返済することができます。

一方で、資金繰りが悪化しているのに原因を見ずに支払いが苦しくなったら借りるような借入に依存することは悪い借入と言えます。

どちらも借入金ですが、意味合いはまったく違います。借入金が無い、借入金額が少ないことと会社経営がうまくいっていることはイコールではありません。

4 代表者保証はこわい?

代表者保証を付けると、会社で返済できなくなったら代表者個人が返済することになります。融資をする銀行からすれば返済してもらうためには代表者保証を求めることは一理ありますが、代表者からすれば会社が倒産したうえに個人でも返済に苦しむことになります。

こんなことを言うと「やっぱりお金を借りない方がいい」と思われるかもしれません。銀行は敵ではなく、ビジネスパートナーです。基本的に返せないような金額を貸すことはありません。(そのために審査をしています)

安易にお金を借りるのではなく、会社にとって必要なことに使うために融資を受けることが重要です。

5 まとめ

創業融資は、創業時に必要な資金としてだけでなく、「将来」の融資にもつながります。業種や経営者の考え方にもよりますが、会社の成長過程で融資を受けようと思うこともあるでしょう。金融機関に預金口座があるだけの関係で、資金が必要になったときに急に融資を申込んでも審査に時間がかかってしまいます。創業融資は金融機関との付き合い方のひとつと言えます。