[最終更新日]2017/08/07
会社設立をしたい方にとって、会社といえば「株式会社」が最初に出てくると思いますが、「合同会社」で会社設立することもできます。
最近、個人事業で開業した方とお話していると「将来は合同会社にしたいです」とお聞きすることが増えてきました。今まではお客様から合同会社にしたいと言われることはほとんどありませんでした。それでは、注目されている合同会社についてご紹介します。
1.合同会社の設立が増えている?
1-1 合同会社とは
合同会社は、株式会社と同じ法人の1つの形態です。
2006年(平成18年)の会社法施行によって、それまでの有限会社の設立が廃止され、その代わりに合同会社が設立できるようになりました。株式会社と同じように1人から設立することができます。
1-2 合同会社の設立件数
[出所:総務省 統計局「政府統計の総合窓口」種類別 合同会社の登記の件数(平成18年~28年)より]
平成18年から設立できるようになりましたが、平成23年までは年間設立が1万社未満でした。たしかにこのころは私も合同会社のお客様はかなり少なかったです。しかし、平成25年からは設立件数が急増しています。合同会社のメリットが認識され、認知度がアップしてきたことがわかります。
1-3 合同会社は「出資者」=「経営者」?
合同会社と株式会社の大きな違いが「出資者」と「経営者」の関係です。
株式会社は、株主が出資して取締役が経営を行う、つまり「Aさんが出資者、Bさんが経営者」になり出資したAさんは経営にタッチしないことができます(もちろん自分1人で株主として出資して自分1人が社長になる「出資者=経営者」もOKです)
しかし、合同会社は、原則として出資者全員が経営も行うことになり、出資者全員に代表権があります。合同会社では出資者を「社員」といいます。(一般的な従業員のことではありません)
株式会社と合同会社を比較して社員を整理してみます。
株式会社 | 合同会社 | |
---|---|---|
出資者 | 株主 | 社員 |
役員 | 取締役 | 社員(業務執行社員) |
代表者 | 代表取締役 | 代表社員 |
このように合同会社では「社員」は出資者であり、役員であり、代表者でもあります。社員が複数の場合、全社員に代表権や業務執行権があると問題が生じることがありますので、定款に定めることで一部の社員にだけに限定することができます。詳しくは下記「3 合同会社は最初の定款作成が重要」をご覧ください。
2.合同会社のメリット・デメリット
2-1 合同会社のメリット
急増しているからにはメリットがあるはずです。合同会社のメリットを見ていきましょう。
■メリット1:設立費用が低い
株式会社の設立費用と比較すると一目瞭然です。
株式会社 | 合同会社 | |||
---|---|---|---|---|
自分で設立 | 司法書士に依頼 | 自分で設立 | 司法書士に依頼 | |
定款認証印紙代 | 40,000 | 0 | 40,000 | 0 |
定款認証手数料 | 50,000 | 50,000 | なし | なし |
登録免許税 | 150,000 | 150,000 | 60,000 | 60,000 |
定款謄本代等 | 約2,000 | 約2,000 | 約2,000 | 約2,000 |
司法書士手数料 | 0 | 約100,000 | 0 | 約70,000 |
合計 | 242,000 | 302,000 | 102,000 | 132,000 |
合同会社はご自分で設立すると約10万円、専門家(司法書士など)に設立依頼すると約13万円となり、株式会社と比べて半額以下とかなり設立費用が低くなります。
(定款認証印紙代:定款に貼る収入印紙代で、ご自分で設立手続きをされる場合は40,000円かかりますが、司法書士さんは「電子定款」を利用するので印紙代が不要になります)
合同会社を選ぶ方の最大の理由は「設立費用の低さ」です。
【設立費用が低くなる理由】
①定款認証がいらない
合同会社は、公証人による定款認証が不要のため、株式会社では必要な定款認証手数料5万円がかかりません。(定款自体は作成しますが、認証はいりません)
②登録免許税が低い
法務局で設立登記するときに必要な登録免許税が6万円と低い。株式会社の登録免許税は15万円なので、この差は大きいです。
③司法書士手数料
定款認証がいらないため、司法書士手数料も低くなることが多いです。
■メリット2:役員(社員)の任期がない
合同会社の社員には任期がありません。株式会社の役員のように2~10年ごとの役員変更登記がいりませんので、役員変更の登記費用が節約できます。
■メリット3:合同会社は株式会社と同じ節税メリットがある
合同会社は法人ですので、税制の取扱いは株式会社と同じです。個人事業から法人化するとき、合同会社も株式会社も同じように節税効果があります。
■メリット4:株式会社に移行できる
合同会社でスタートし、事業が拡大してから株式会社に移行することができます。
■まとめ
このようにあまり費用をかけずに法人設立できることで合同会社を選ぶ方が増えています。業種にもよりますが、起業時の初期費用(許認可の費用、店舗の改装費用、テナントの保証金、備品代など)は思っていた以上にかかることがありますので、設立費用を抑えることができるのは大きなメリットです。
2-2 合同会社のデメリット
次は合同会社のデメリットを見ましょう。
■デメリット1:「代表取締役」と名乗れない
株式会社の代表取締役は、合同会社では「代表社員」となります。名刺やホームページに代表社員と記載することや初対面で挨拶するときに「代表社員の○○です」と言うことを気にされる方にとってはデメリットになります。
肩書を気にされない方には全く問題ありません。
■デメリット2:認知度が低い
急増しているとはいえ、まだ合同会社を知らない方が多いのも事実です。取引先や求人採用面では株式会社の信用性には劣ります。
しかし、信用性が劣るのはあくまでもイメージです。現在は資本金1円以上で株式会社を設立できますので、株式会社も合同会社も本来は同じです。合同会社自体が新しい会社ですので、設立件数が急増していることを考慮すると今後は認知度が高くなっていくと思われます。
■デメリット3:社員が複数いる場合、意見が対立するとまとまらない
株式会社は、出資額が多いほど株数(議決権)が多くなり、会社に対し強い発言力を持ちます。(通常は1株につき、議決権1個)
合同会社は、出資額の多い少ないにかかわらず、原則として社員1人につき議決権1個となります。
〇定款の変更などの重要事項は、原則として社員全員の同意が必要
〇会社経営の意思決定は、原則として社員全員の過半数で決める
このように社員全員や過半数の同意が必要となっているため、社員が複数いる場合は意見がまとまらないことがあります。
ただし、この意見がまとまらないことを回避する方法があります。詳しくは下記「3 合同会社は最初の定款作成が重要」をご覧ください。
なお、社員1人で合同会社を設立してその後も社員1人で事業を行う場合は、これらの問題は全くありません。
3 合同会社は最初の定款作成が重要
複数の社員で合同会社を設立すると意見が対立してまとまらない可能性があります。特に社員2人の場合は、1人が反対すると過半数にならないため常に2人の同意が必要となります。対立自体を防ぐことは難しいですが、「定款に会社独自のルール」を規定することで意見がまとまらないことを回避することができます。
3-1代表者を1人に限定する
原則として全社員に代表権がありますが、そうすると取引や契約のときにトラブルになる可能性があります。これを防ぐため、株式会社の代表取締役のように、合同会社でも定款で「代表社員」を1人に決めておくことが良いでしょう。
3-2業務執行社員を決める
出資はするが経営にはタッチしない社員がいる場合、経営に参加する「業務執行社員」と経営に参加しない「社員」に分けることができます。
業務執行社員が複数いる場合は、業務執行社員の中から代表社員を選びます。
3-3定款を変更できるようにしておく
〇定款を変更したい
〇社員を追加したい(合同会社の社員になるためには、定款に記載する必要がある)
これらのときは「全社員の同意」が必要です。これを定款で会社独自のルールとして「社員の過半数の同意」に変更することができます。
〇会社経営の意思決定をする(売上単価をいくらにするか、商品の仕入先はどこにするか、いつごろ求人募集するか、など日々の業務の中でたくさんあります)
これは「社員の過半数の同意」が必要です。
社員2人の場合は、「全社員の同意」でも「社員の過半数の同意」でも1人が反対すれば結果は同じになります。そこで、定款で「出資額に応じて議決権の過半数の同意」に変更します。そうするとAさんが200万円を出資、Bさんが100万円を出資している場合は、Bさんが反対してもAさんの同意だけで重要事項を決めたり意思決定をすることができます。
4 合同会社に向く業種
■飲食業、美容エステ業、理美容業
一般消費者向けの事業であることから会社名ではなく「屋号(お店の名前)」で認知されるため、合同会社かどうかはあまり関係がない
■不動産賃貸業
入居者は賃貸物件を気に入るかがポイントなので、貸主の会社は関係ない。また、相続税対策等に法人を活用する場合でもコスト面から合同会社が合っている。
■介護サービス業
許認可の要件で法人格が必要であるため、設立費用が低い合同会社が選ばれる。
■ネットビジネス
アフリエイトなどは対外的信用があまりいらないことや、節税目的で法人化するため、合同会社に向く。
5 まとめ
1人、家族経営、少人数で会社経営をしたい方におすすめです。設立費用やランニングコストが低いことで合同会社を選ぶ方が多いですが、複数人で設立する場合は、会社の内容に応じて定款で定める事項をしっかり決めておくとスムーズに会社経営がすることができます。
メリット・デメリットを知っても、株式会社と合同会社のどちらを設立するかお悩みの方は、「株式会社」を選択することをおすすめします。