株式会社を設立する前に知っておきたいこと

[記事公開日]2017/07/28
[最終更新日]2018/01/23

税理士が株式会社の設立手続きをするわけではありませんが、設立する上で決めていく項目のうち税金に影響する部分があります。

設立前の準備段階から税理士に相談しながら進めていくことで多くのメリットがあります。

設立後からでは後戻りできないことがありますので、税務上の注意点を中心にご説明いたします。

1 株式会社の設立費用

自分で設立をする場合と専門家(司法書士さん等)に設立代行を依頼する場合で次のように異なります。

  自分で設立 司法書士に依頼
定款認証印紙代 40,000 0
定款認証手数料 50,000 50,000
登録免許税 150,000 150,000
定款謄本代等 約2,000 約2,000
司法書士手数料 0 約100,000
合計 242,000 302,000

 

■定款認証印紙代

定款に貼る収入印紙代で、ご自分で設立手続きをされる場合は40,000円かかりますが、司法書士さんは「電子定款」を利用するので印紙代が不要になります。

■司法書士手数料

手数料(報酬)は司法書士さんによって異なります。一般的には10万円ぐらいかと思います。

 

2 設立項目の決定

株式会社を設立するときに決めなくてはいけない項目があります。たくさんの項目がありますので、実際の設立手続きをする前に考えておくとスムーズに設立を行うことができます。

①会社名(商号)

株式会社○○ または ○○株式会社

のように会社名の前か後ろに株式会社を入れます。

会社名を決めるのは難しいと思いますが、今まで設立をサポートさせていただいたお客様の多くが事前に考えておられました。

②事業目的

この会社は「何の事業を行う会社なのか」が事業目的です。

・設立後すぐに行う事業

・将来行う可能性がある事業

この両方とも記載しておきましょう。

記載した事業を必ず行わないといけないわけではありませんのでご安心ください。

【注意点】

事業目的にない事業を行うことができない。新しく事業を始める場合は、後から目的を追加(変更)することができます。

日本政策金融公庫などでは、金融業・投機的事業・一部の遊興娯楽業等の業種は融資が受けられないので、融資を考えている方はこれらの業種は記載しないようにしましょう。

③本店所在地

会社の住所をどこにするかを決めます。

自宅、賃貸テナント(貸店舗)、バーチャルオフィスなど様々な所在地を選ぶことができます。

自宅でスタートし、事業が軌道に乗ってから賃貸テナントに本店所在地を移転(変更)することもできます。

【注意点】

賃貸の居住マンション:自宅が賃貸の居住マンションの場合、賃貸借契約書に「居住専用」「事業の用に供することができない」などと記載されていることがありますので、大家さんに確認してから本店にするかを決めましょう。

設立前に事務所・店舗を借りる:会社設立前ですので個人で契約することになります。設立後は会社に名義変更してもらうように事前に大家さんと話をしておきましょう。後から名義変更をすると個人での契約を解約し、再度会社と契約することになる可能性があり、礼金などをもう一度支払うことがあります。

④資本金

現在の会社法では1円以上の資本金(=自己資金)で設立できます。

(旧商法では、有限会社は最低300万円、株式会社は最低1,000万円必要でした。若い事業家が株式会社設立で自己資金1,000万円を貯めるために相当の年数がかかり、起業のハードルが高かったのですが、2005年にこの最低資本金制度が廃止されたことにより、起業が容易になりました。)

それでは、資本金をいくらで設立するのが良いでしょうか。事業を始めるにあたって、揃えないといけない備品や事務用品、数か月分の運転資金も必要ですので、100万円~500万円が目安となります。

 

上図は、平成28年に設立された株式会社は資本金がいくらだったかがわかる統計です。これを見ると100~300万円が34.6%と1番多く、意外にも500~1,000万円が24.4%と2番目に多いです。100万円未満は16.4%と少ないですね。結論としては、100~500万円の資本金が53%と約半数あることから一般的な金額とわかります。

なんとなく資本金が多いと「大きな会社」というイメージがあるかと思います。銀行や取引先などが対外的信用として会社の規模を見る一つの要素になり、資本金が大きいほど「体力のある会社」と見られます。

一般消費者向けの業種の場合:一般消費者はそれほど会社の規模として資本金を気にされないかと思います。

会社間の取引を行う業種の場合:設立当初は実績がありませんので、資本金が大きいほど取引先からの信用につながることが多いです。

【注意点】

創業融資:日本政策金融公庫の「新創業融資制度」を利用する場合、「創業時に創業資金総額の1/10以上の自己資金が必要」になりますので、最大で自己資金の10倍までしか借りることができません。自己資金以外の要件もありますが、あまりにも自己資金が少ないと借りることができる金額も少なくなってしまいます。

許認可:許認可によっては、財産的要件を満たさなければならない場合があります。創業時から許認可を取得したいときは、一定以上の資本金(下記参照)を用意することで要件を満たすことが多いです。

・一般建設業:500万円

・第3種旅行業:300万円

・有料職業紹介事業:500万円×事業所数

・労働者派遣事業:2,000万円×事業所数

など

消費税:新規設立の会社は、1・2期目は2年前(基準期間)の課税売上がないので、原則は免税事業者として消費税を税務署に納付する必要がありません。(実際は「特定期間の納税義務の判定」などがありますが、便宜上説明を省略しています)

しかし、事業年度「開始の日」時点の資本金が1,000万円以上ある場合は課税事業者として消費税を納付する義務があります。(1,000万円以上ですので、9,999,999円まではOKです)「資本金が数百万円では対外的信用は低いのでは?と思い、無理してでも資本金1,000万円で設立しよう」という場合は、1期目から課税事業者になります。

「事業年度開始の日」時点の資本金で判定しますので、資本金900万円で設立して2期目の途中で100万円増資して合計資本金が1,000万円とします。この場合、事業年度開始の日は資本金900万円ですので、1・2期目は免税事業者となります。

このうように対外的信用を重視される方は、後から増資する方法もご検討ください。

法人住民税の均等割:京都府・京都市の場合、法人が京都府内・京都市内に事務所等又は寮等があれば課税される「均等割」という税金があります。黒字や赤字に関係なく、事務所等又は寮等があれば毎年課税されます。

この均等割は資本金等の額などに応じて税額が異なります。

資本金等の額が1,000万円以下・・・京都府20,000円+京都市50,000円=70,000円

                 ↓ 110,000円増加

資本金等の額が1,000万円を超えて1億円以下・・・京都府50,000円+京都市130,000円=180,000円

京都市内に事務所等があれば毎年最低70,000円の均等割がかかります。(資本金等の額が1,000万円以下ですので、1,000万円ちょうどまでは均等割が70,000円です)例えば、資本金等の額が1,001万円の場合、均等割が110,000円も上がってしまいます。毎年かかる税金ですので負担が大きくなります。

【まとめ】

資本金は事業を行っていくうえで重要です。設立時の資本金が少ないと創業融資や許認可が受けられず思うように事業ができなかったり、逆に資本金が多いと消費税や法人住民税の均等割がかかり負担が大きくなります。資本金をいくらにしたらよいかは起業する方によって異なります。設立後の数年先のことも含めて考える必要があります。例えば、資本金が50万円の会社は100万円の赤字が出るとすぐに債務超過になり、債務超過になると銀行からの新規融資が難しくなることもあります。将来を予測することは難しいですが、予期せぬ事態が発生したときに耐えらえれるようにある程度は資本金を多くしたいものです。

税金面では、資本金を多くしたい場合、消費税の免税事業者を考えると資本金1,000万円未満で設立し、2期目の途中で増資して1,000万円ちょうどにすると設立後2年間の免税事業者と法人住民税の均等割が最低の70,000円となります。

⑤株主

会社の資本金を出した人が株主となり、株主がその会社を所有することになります。上場企業でも非上場企業でも株式会社の所有者は株主です。「会社は社長のモノ」と思われがちですが、実際には「会社は株主のモノ」になります。

同じ人が株主にも社長にもなる「株主1名・代表取締役1名」が一番多いケースです。

株主1名の場合はその人が議決権の100%を保有します。通常、1株につき1つの議決権があります。議決権が多いほど会社に対する発言力や影響力が大きくなります。次のように複数人で出資するときは、議決権割合に注意が必要です。

【注意点】

共同出資:同じ職場で働いている人同士で退職して一緒に起業しようということがあります。3名でそれぞれ100万円ずつ出資すると資本金300万円の株式会社が設立できます。1人で起業するより資本金を大きくすることができ、気心の知れた仲間でスタートできる安心感などメリットがあります。3名で出資しますので、それぞれが株主となり、議決権はそれぞれ1/3ずつ保有します。株式会社では株主総会で重要事項(代表取締役を誰にするか、役員報酬をいくらにするかなど)を決定します。基本的に議決権の過半数の賛成が必要となります。3名の関係性がうまくいっているときは良いのですが、方向性が変わり意見の食い違いが出てくると株主総会で物事を決めることが難しくなってしまいます。

【まとめ】

議決権だけに着目すると単独で100%保有するのが一番良いですが、複数人で出資する場合は、議決権は代表となる人が最低でも過半数を持つ、できれば特別決議(特に重要な決議事項)に必要な2/3以上の議決権を持つようにしたいものです。

(過半数は50%ちょうどはダメで、50.1%のように50%超をいいます)

⑥役員

実際に会社を経営する「取締役」と会計監査などを行う「監査役」を決めます。(取締役や監査役を役員といいます)

現在の会社法では取締役1名から株式会社を設立することができます。(旧商法では、取締役3名以上+監査役1名以上の合計4名以上が最低必要でしたので、役員になってくれる人を探す必要がありました。これも改正により、取締役1名からでOKとなり起業がしやすくなりました)

起業するご本人のみが取締役になる、またはご本人と奥様の2名が取締役になるケースが多いです。監査役は置かなくてもいいので、監査役なしで設立することが多いです。

⑦役員の任期

役員として仕事をする期間を任期といいます。原則、取締役は2年、監査役は4年とされていますが、「株式の譲渡制限会社」として定款で定めると取締役も監査役も最長で10年とすることができます。(譲渡制限株式とは、会社の株式を勝手に他人に売買することができないように制限を付けることです。会社を乗っ取られないようにするため、譲渡制限を付けることが多いです)

したがって、株式の譲渡制限会社では取締役は2~10年、監査役は4~10年の間で任期を決めることができます。

任期が満了すると、再び同じ人が役員となる「重任」または満了につき「退任」し新しい人が役員として「就任」することになります。重任や退任のたびに役員変更登記を行わないといけないので手間や登記費用がかかることを踏まえると任期を最長の10年にする方がコストを抑えることができます。

では、どのような場合でも任期は10年が良いでしょうか。次のように誰が役員となるかによって期間を決めることをお勧めします。

・役員1名(ご本人だけ)の場合は、10年

・役員が身内(夫婦・親子)の場合は、5~10年

・第三者が役員に入る場合は、2~10年

【注意点】

任期の途中で役員を解任することは難しい:任期を10年とすると「10年間役員をお願いします」と委任することになりますので、任期の途中で解任(辞めてもらう)すると、残りの任期満了までの期間の役員報酬を払うように請求される可能性があります。(解任するだけの正当な理由があれば別です)夫婦や親子間でもそうですが第三者を役員に入れる場合は、役員としての資質があるかなどの判断が難しいことがあります。任期を2年と短くしておけば、最悪、任期満了まで待てば退任してもらえます。

⑧事業年度(決算月)

会社の決算月はいつでも自由に決めることができます。

1事業年度を12か月や6か月のように自由に決めることができます。(12か月を超えることはできません)

日本では社歴が長い会社は4月を期首としてスタートし翌年3月を決算月とする12か月間を事業年度とすることが多いですが、比較的社歴が浅い会社の決算月は3月のように特定の月に偏ることなく様々な月を決算月としています。これは設立したタイミングからまるまる1年後を決算月としているためです。

【注意点】

季節によって売上が変動する業種「売上が多い月を期首」とし、「売上が少ない月を決算月」とすることをお勧めします。

売上が多い月からスタートすると早い時点から節税対策ができ、納税資金の準備も容易です。決算月の約3ケ月前に決算シミュレーション(最終利益と税額の予測)を行うときに、期末の売上がもともと少ない場合は予測がしやすいメリットがあります。

しかし、決算月に売上が多いと最終利益と税金の予測が難しくなります。毎年、売上が多いと言っても今期に限って売上が少なかったら赤字の決算になってしまう可能性もあります。決算日から2か月以内に法人税等を納付しないといけないのに、決算月の売上は3か月後に回収するようなことがあったら納税資金に充てることができません。

消費税の免税期間:新規設立の会社は、事業年度開始の日時点の資本金が1,000万円未満の場合は、1・2期目は免税事業者として消費税を税務署に納付する必要がありません。この消費税の免税事業者となる期間を長く取るためには1事業年度をできるだけ12か月間にするようにします。例えば、3月決算の会社にしたい場合、2月1日に設立すると3月31日までの2か月間となります。3月決算にこだわらずに12か月後を決算月とすると2月1日からスタートし1月31日が決算日となります。

【まとめ】

決算をいつにするか、事業年度を何か月にするかで、節税・納税資金・消費税などいろいろなことと関係します。よく考えて決めても数年後に取引先が変わったり、業種が拡大したりすることで売上の多い月が変わることもあります。そのようなときは後から決算月を変更することができます(正当な理由が必要です。何度も頻繁に変えることは避けた方が良いでしょう)

以上、株式会社を設立するときに決めなければいけない項目について税務上の注意点も含めて見てきました。今回ご紹介した以外にも「取締役会を置くか」「発行済株式数をいくらにするか」などがあります。これらの項目のうちほとんどが会社の謄本(履歴事項全部証明書)に記載される登記事項になります。登記事項を変更する場合はその都度登記が必要になり、手間や費用がかかります。

設立前から会社設立の専門家である司法書士や税務の専門家の税理士と一緒に相談しながら決めていくことで、起業する方ごとに合った株式会社を設立することができます。

3 設立の流れ

ここから一般的な株式会社を設立する流れをご説明いたします。

①設立項目の決定

上記で見ました「株式会社を設立するときに決めなくてはいけない項目」を決定します。これらは会社の「定款」に記載する事項になります。定款とは会社の基本的な規則をまとめたもので、会社の設立手続きで必ず作成しないといけません。

②準備するもの

会社の印鑑

・会社の実印(代表者印):会社名が決まったら作ります。

・会社の銀行印:必ず作らなければいけないわけではありませんが、実印と銀行印を分けておく方が良いと思います。

・会社の角印:こちらもなくても大丈夫ですが、請求書や領収書などに使われることが多いです。

・会社のゴム印:会社名、会社住所、代表取締役の氏名、電話番号、FAX番号などを作っておくと便利です。事業を開始すると意外とたくさんの書類に活躍します。

*会社設立の印鑑3点セット(会社の実印・銀行印・角印)があります。印鑑にこだわる場合は注文してから納品まで時間がかかることもありますので、早めに購入しましょう。

印鑑証明書

・定款の認証時に「発起人(出資者)全員の印鑑証明書」がそれぞれ1通ずつ必要になります。

・登記申請時に「取締役全員の印鑑証明書」がそれぞれ1通ずつ必要になります。

*印鑑証明書は発行後3か月以内のものになります。通常は定款の認証から登記申請まで3か月以内に行いますので、印鑑証明書を一緒に取得しておくと手間が省けます。

③定款の作成

設立項目が決まると定款を作成します。定款に記載する事項は次の3つに分かれます。

(定款の作成は何をどこまで記載するかは複雑ですので、参考程度にご確認ください)

【絶対的記載事項】

定款に必ず記載しなければならない事項で、その記載がないと定款が無効となります。

・目的

・商号

・本店の所在地

・設立に際して出資される財産の価額又はその最低限

・発起人の氏名又は名称及び住所

以上の5項目が絶対的記載事項ですが、「発行可能株式総数」も会社設立までに定款に定める必要があります。

【相対的記載事項】

定款に定めることによって効力が生じる事項です。定款に記載しなくても定款自体は有効です。

・現物出資

・財産引受

・発起人の報酬

・設立費用

など、その他多数あります。

【任意的記載事項】

定款以外の方法で定めても有効な事項を、定款に定めることで内容を明確にすることができます。

④定款の認証

定款の作成が完了したら、次は「定款の認証」になります。会社の本店所在地を管轄する法務局に所属する「公証役場」で、作成した定款の記載が正しいかを第三者である公証人に証明してもらいます。「発起人(出資者)全員の印鑑証明書」をそれぞれ1通ずつが必要になりますので、事前に取得しておきましょう。

なお、定款を紙で準備する場合は収入印紙代 4万円がかかります。(PDFの電子定款の場合は収入印紙代は不要です)

⑤資本金の払い込み

定款の認証が完了したら、「資本金の払い込み」をします。注意点は、必ず定款の認証が終わってから資本金の払い込みをすることで、この順番が重要です。

■発起人(出資者)個人の銀行口座を用意

 新しい口座を作る必要はなく、今お使いの口座でOKです。通帳のコピーを取りますので、通帳がある口座を使います。(通帳のないネット銀行は使用しない方が無難です)会社設立前ですので、会社の口座は存在しません。発起人が複数いる場合は代表者の口座を使います。

■資本金を振り込む

 設立項目で決めた金額を振り込みます。ただし、発起人が1人の場合は、預入でもOKです。

■通帳コピーを取る

 振込が完了したら、通帳の「表紙、表紙裏、振り込んだページ」の3か所のコピーを取ります。表紙裏は通帳を開いた氏名・支店名・口座番号などが記載されているページです。

*通帳コピーを取り終えたら、資本金を引き出すことができます。

■払込証明書を作成する

 発起人から会社に払い込んだことを代表取締役が証明する書類として払込証明書を作成します。

⑤設立登記申請

ここまで来たらあと少しで会社設立です。

株式会社設立登記に必要な申請書を用意し、本店所在地を管轄する法務局に登記申請します。法務局に申請した日が会社設立日になります。申請してから1週間から10日ほどで登記完了となります。

 

以上、株式会社を設立する前に知っておきたいことをまとめました。会社の設立手続きには注意すべき点がたくさんありますので、設立のご参考になれば幸いです。